治外法権と領事裁判権の違い
Q.治外法権と領事裁判権は何が違うのですか?
A.
治外法権→当該国の司法権・行政権に服さない権利、
領事裁判権→当該国で起こった事件を当該国ではなく加害者側の国の法律で加害者側の国の判事が裁ける権利、
です。
つまり、領事裁判権は治外法権のうち特に司法権に限定したものになります。
これらは、日米修好通商条約をはじめとする安政の五か国条約で必ず学ぶキーワードですね。関税自主権の喪失とともに、領事裁判権を諸外国に与えてしまったことは、明治維新、そして日清戦争などの時期を通して、日本の外交政策の中で条約改正を目指していくきっかけになります。
さて、今この文章↑では「領事裁判権」と記載しました。
小・中・高の歴史、日本史、世界史においては、治外法権と領事裁判権に明確な違いを持たせないため、テストで聞かれても、どちらでも正解になると思いますが、両者の違いを知った現在、果たして実際の条約で定められたのは治外法権と領事裁判権、どちらなのか、厳密なところが気になりませんか?
それでは日米修好通商条約の条文を見てみましょう。件の権利に関しては第6条に記載されていますので、引用します。現在では全く見ない旧漢字もありますが、何となく意味は理解できると思うので読んでみましょう!
※条文にある「コンシュル」というのは領事・領事館のことです。
※原文だと句点が存在しないため、区切りにスペースを設けています。大方「~へし」で一区切りです。
第六條 日本人に對し法を犯せる亞米利加人は亞米利加コンシュル裁斷所にて吟味の上亞米利加の法度を以て罰すへし 亞米利加人へ對し法を犯したる日本人は日本役人糺の上日本の法度を以て罰すへし 日本奉行所亞米利加コンシュル裁斷所は雙方商人逋債等の事をも公けに取扱ふへし 都て條約中の規定並に別册に記せる所の法則を犯すに於てはコンシュルヘ申逹し取上品並に過料は日本役人へ渡すへし 兩國の役人は雙方商民取引の事に付て差構ふ事なし
「日本國米利堅合衆國修好通商條約〔日米修好通商条約〕」
(ボールド体、スペース:引用者註)
ボールド体(太字)になっているところに着目してください。この部分を現代語訳すると、
「日本人に対して法を犯したアメリカ人は、アメリカ領事裁判所で審議をした上で、アメリカの法律に則って罰することとする」
ということになります。
つまり、ここでは司法についてのみ言及しているので、領事裁判権と言うのが厳密には相応しいように思います。
なぜ学校で扱われる際に曖昧なのかについて、確信を持つことはできませんが…2つの単語の定義から考えてみると、
日本国内に居留した外国人は居留地内では自治権を行使したため、日本の主権外の存在となりました。そこで諸外国に治外法権(司法権+行政権)を与えたと表現することが可能です。小・中学校の歴史では2つの単語の境目は曖昧で、細かい使い分けはされていません。しかし、あくまで条約内容として重要だったのは領事裁判権であり、特に条文などの史料も扱う高校の日本史では「領事裁判権」と扱われることが多いようです。
ところで、現在の日本の法律ではどうなっているのでしょうか。
刑法では冒頭の条文で該当者に関する規定を述べています。第一条は国内犯、第二条はすべての者の国外犯、第三条は国民の国外犯、第三条の二は国民以外の者の国外犯、第四条は公務員の国外犯、第四条の二は条約による国外犯についてです。また、第五条では外国判決の効力について述べています。
ここでは刑法の第一条・第二条・第三条の二・第四条の二・第五条に関して、適用される罪科は省略して引用します。
第一条 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。(以下略)
第二条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。(以下略)
第三条の二 この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。(以下略)第四条の二 第二条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。
第五条 外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない。ただし、犯人が既に外国において言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除する。
「刑法」(ボールド体:引用者註)
そう簡単に理解できる内容ではないのですが…私も混乱しました(笑)。少なくとも、
国内で法を犯した外国人は日本の法律で裁かれます(第一条)。また日本人に対して特定の罪を犯すと、それも日本の法律で裁かれます(第三条の二)。
ですから、あたりまえのことですが、現在の日本は自主的な権利を持っています。幕末から条約改正達成までの約50年間はそうではなかった!そう考えると当時の日本の弱さや、列強の理不尽さなどが見えてきて、面白いのではないでしょうか?
《引用》
- 「日本國米利堅合衆國修好通商條約〔日米修好通商条約〕」
- 電子政府の総合窓口e-Gov「刑法」(https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=140AC0000000045 閲覧日:2020/6/18)
また、今回の回答を得るにあたって、恩師にご協力いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
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